妊婦にバイアグラ!というアイキャッチなタイトル報道を憂う

臨床試験に対する報道のタイトルは!?

妊婦にバイアグラ投与する臨床試験、新生児11人死亡で打ち切り オランダ

というセンセーショナルなタイトルの報道がされました

【7月25日 AFP】胎児が子宮内で正常に発育していない妊婦を助けるため、男性機能不全(ED)治療薬バイアグラ(Viagra)の使用を模索する革新的な研究が、臨床試験での新生児11人の死亡を受け中止となった。

子宮内での発育が重度に障害される「胎児発育不全」に対して、どうにかしてよい治療方法はないだろうか、ということから始まった臨床試験で、周産期医療に携わっている私としては、臨床試験結果とは別に、この報道のタイトルに驚きました。

重度胎児発育不全

子宮内での成長が障害される発育不全でも、重度の場合、子宮内での状態の悪化により子宮内胎児死亡に至ったり、状態悪化に対する早期娩出によって早産となり未熟性により死亡したりすることがあります。“ある程度以上の発育不全”があると、残念ながら生存が望めないことも科学的な根拠のあることです。

これまで、胎児発育不全に対しては多くの「胎児治療」としての試みがなされてきました。

母体に酸素を投与する、ブドウ糖液を投与する、アミノ酸や他の栄養素を投与するなど、沢山の臨床試験の結果、なかなか効果的なものが得られないジレンマを抱えながら現在に至っています。

バイアグラとそのジェネリック医薬品とは

バイアグラとは、ファイザー社が開発した一般名をシルデナフィルという血管拡張作用のある薬品です。

シルデナフィルは、ホスホジエステラーゼ5 (PDE-5) の酵素活性を阻害することで、結果的に血管拡張作用を起こします。

肺動脈性(原発性)肺高血圧症という難病では、肺動脈の血管抵抗が高く、肺への血流が少なくなり、生命予後の悪い疾患です。また狭心症は心臓の冠動脈の狭窄によって引き起こされます。これらの場合、血管抵抗をさげることができれば症状の改善や余命の延長が得られるのですが、そういう中で開発されたのがシルデナフィルになります。

どういう経緯かわかりませんが、この薬剤の開発過程において、ED、つまり、勃起不全への効果があるということで、世間に「バイアグラ」という商品名で知られるようになった薬剤です。

肺動脈性肺高血圧症に対して、「レバチオ」という商品名でファイザー社から発売されています。

シルデナフィルによる胎児治療とは

シルデナフィルには、ホスホジエステラーゼ5を阻害して血管拡張を引き起こす作用があることから、もし、子宮胎盤循環における血管抵抗の増加が胎児発育不全の原因であるとすれば、血管拡張による発育不全の改善に繋がるのではないか、という着想がなされるのは当然のことで、そのための試みがなされてきました。

動物実験もなされており、ヒト胎児への応用、つまり、妊婦さんへの投与へ問題ないのではないか、と考えられてきました。

Hypertension. 2016 Sep;68(3):760-7. doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.116.07662. Epub 2016 Jul 18. Research Support, Non-U.S. Gov't

昨年には、184人の妊婦さんを対象にした,今回の報道で紹介された臨床試験と同様の方法である無作為割り付けによる臨床試験において、シルデナフィル投与により、羊水過少が改善したという論文報告も行われています。

Obstet Gynecol. 2017 Apr;129(4):615-620. doi: 10.1097/AOG.0000000000001928. Randomized Controlled Trial

小さな命を救いたいという思いは、国が違えど共通の想いです。

今回の臨床試験の解釈

私としては個人的には、なんらかの胎児治療による改善が得られることを期待していたのですが、今回の報道からみると、シルデナフィル投与の93人中の19人、偽薬投与の90人中9人が死亡したということなので、

「統計学的には、両群間に有意差はない」

つまり、シルデナフィル投与が有意に死亡率を高めているとは言えない、ということになります。

詳細については、おそらく今後どこかの学術雑誌に投稿される論文を読まないとわかりませんが、現時点では、

「バイアグラが新生児死亡を増加させた」とは言えない

ということです。

冷静にタイトルを読み込めば、「バイアグラが悪い」とは言ってないでしょうが、受け取り方によっては様々な反応になるでしょうから、とても微妙な気持ちです。

臨床試験とは

臨床試験とは、そもそも、ある治療法の効果や副反応を検討することで、その治療方法が妥当であるか否かを検討するものです。

私たちが行っている医療は多くのものがこの臨床試験によって培ってきた結果の上に成り立っています。そのため、今回の臨床試験がなにか「特別に実験的なもの」ではないでしょう。

確かに過去には、人道的で無いことが行われて来た歴史もあるでしょうし、そのことをう踏まえて、臨床試験に対する倫理的観点からの取り組みがなされていますし、十分なインフォームド・コンセントも得ているものです。

個人的には、「効果が得られそうもない」という判定をした時点で、その結果を公表して試験を打ち切ったことは、臨床試験を実行する上で妥当な対応をされたと考えるべきでしょう。

いつの日か、重度胎児発育不全に対する効果的な薬剤が日常臨床において使用できるようになることを期待したいものです。

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