第16回日本胎児治療学会学術集会を開催して

わが国は、超音波診断を中心とした出生前診断の技術、普及率、新生児医療のレベル、いずれも世界に誇れるものがあり、周産期死亡率に見る周産期医療は世界のトップクラスにある。しかし、出生前の胎児に対する治療(胎児治療)に関しては、社会的、経済的に認知されているとは言い難く、治療の対象となるべき病気を持つ多くの胎児が適切な治療を...

第16回日本胎児治療学会学術集会が漸く終わった。2018年11月30日(金)・12月1日(土)の一両日にわたって、大田区民ホール・アプリコを会場として、二日間の熱き討論が終わった。

決して大きな学会ではないが、全国から専門家が集まる学会を主催するには、約一年の準備が必要になる。

会場の確保、予算案の作成、協賛企業への展示や広告の依頼、ランチョンセミナーの企画、特別講演の演者の選出と依頼等々、大半のことを一年前に構想を練っていないと間に合わない。おぼろげな設計図を作成し、何度も修正をしながら細かな調整をしていくことが必要になる。

開催日の前日は緊張のあまり眠ることができなかったが第一日が始まった。

第一日(11月30日)

本学会では座長の先生にはご負担であったことであろうが、新たな取り組みとして「Overview Lecture」を取り入れた。一般演題の各セッションの冒頭に座長より演題に関連する総論の講義をしてもらうことで、聴講者の理解を深めると共に各演題における緒言の時間を省略し、より深い議論をすることが目的であった。

一般演題1:胎児胸部疾患


吉澤穣治座長(東京慈恵会医科大学小児外科)よる胎児胸部外科疾患のOverview Lectureにて討論の幕が上がった。先天性横隔膜ヘルニア(CDH)、上気道閉鎖、CPAMなどの症例報告がなされ、いきなり沢山の質問があった。CPAMに対するステロイド投与の是非については今後の臨床研究の課題となるだろう。
議論が白熱して時間が超過し、すでにプログラム通りの進行になっていないが、これがこの学会の特徴(^_^;

一般演題2:胎児不整脈

稲村 昇座長(近畿大学小児科)による胎児不整脈の概要や診断のLectureの後、胎児不整脈症例の提示がなされた。循環器疾患は難しい内容が多く、その分野の専門家でないと議論に入りにくい状況があるが、活発な討論が行われた。胎児頻脈性不整脈にたいする多施設共同介入試験は、我が国が誇る胎児治療の介入試験の一つとなるだろう。
前野泰樹先生(聖マリア病院)の提案した自宅で胎児心音を聴取するデバイスの提案は、在宅での胎児疾患管理への新しい試みだった。

ランチョンセミナー1


「生殖外科における内視鏡手術」と題し、田中政信先生(東邦大学元教授)の座長の下、森田峰人先生(東邦大学医学部産科婦人科学講座)の講演が行われた。内視鏡手術のエキスパートによる様々な手技の供覧は、胎児治療に関わる医師にとって今後活用が可能な技術として沢山のアイデアを提示してくれるものだった。


なお、提供されたお弁当は、蒲田のソウルフードの一つ、鳥久の弁当だった。

一般演題3:多胎

村越 毅座長(聖隷浜松病院総合周産期母子医療センター)の多胎の講義の後、演題発表が行われた。村越先生のハート型の双子の胎盤はいつみても興味深い。


我が国の胎児治療症例は、双胎間輸血症候群が圧倒的に多いが、適応や合併症など、予後改善が可能になった今だからこそ表出してきた問題点への討論がなされた。
なお、遠藤誠之先生(大阪大学)による減胎術に関する臨床試験の立案と倫理審査の過程の顛末の提示は、医療技術をとりまく倫理的課題への取り組みの重要性を認識させるものだった。

一般演題4:小児外科疾患

北川博明先生(聖マリアンナ医科大学小児外科)のOverviwe lectureでセッションが始まった。-D-(バーディーバー)、脊髄髄膜瘤、乳び胸などなど多岐に渡る演題に対してまとめて頂いた。

区民公開講座:ホルモン剤と女性の健康

当学会では、学会の一般演題の進行と並行して、市民公開講座が開催された。
前村俊満先生(東邦大学)の司会進行で、片桐由起子先生(東邦大学)にホルモン剤に関して講演をいただき、多くの市民の方々に参加頂いた。

特別講演1:ゲノム編集の原理と疾患研究への応用

本学会の特別講演は、広島大学大学院理学研究科 山本 卓教授に、ゲノム編集についてご講演いただいた。一週間前に中国でゲノム編集による双子を誕生させたというニュースが舞い込んでいたタイミングでの講演だったが、将来本当に人に応用されるのか、多くの可能性を秘めた技術だけに、聴講側の熱心な視線を感ずることができた。

懇親会

無事一日目が終了し、懇親会は、歓迎本店で開催した。
蒲田といえばいつの間にか羽付餃子が有名になっているが、食べきらないほどの料理とお酒に満足頂けただろうか。与田仁志先生の乾杯の発声と共に宴は始まった。お店を貸しきり、沢山の話題で盛り上がっていたのが幸いだった。

中締めは稲村次期会長のご挨拶だった。次回は近大マグロの解体ショーという提案に、会場は歓声がこだました。

第二日

昨夜は懇親会後、二次会、三次会への繰り出された参加者も多かった事だろう。朝7時30分から幹事会が執り行われ事務局長の高橋雄一郎先生の進行で粛々と議事が議論された。

一般演題5:前期破水、子宮内胎児発育不全

田中 守先生(慶應義塾大学産婦人科)の解説で二日目の学会が始まった。胎児発育不全の評価法、前期破水の問題点について解説いただいた。前期破水に関する羊水還流法、タダラフィルによるFGRの臨床試験などの知見が発表され、議論が交わされた。

一般演題6 研究・開発

石井桂介先生(大阪母子医療センター産婦人科)のOverview Lectureではなく、研究や開発に関する談話と会場との意見交換でこのセッションは始まった。米国で行われている子宮外環境での胎児管理の発表に多くの質問が寄せられていた。また、要望演題として、東京都立産業技術研究センター城南支所の田中実所長に、産学公の連携による医療技術開発にて解説していただいた。この分野は、開発が必要な技術が沢山あり、今後の発展のための仕組み作りの重要性を参加者に認識してもらったのではないかと思う。

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ランチョンセミナー2:胎児心機能のこれまでとこれから

市塚清隆先生(昭和大学横浜市北部病院産婦人科)の司会で、松井彦郎先生(東京大学医学部小児科)に、胎児心機能の評価と今後の可能性について講演していただいた。一口に胎児心機能と言っても、色んな観点からの評価方があることを詳細に解説して頂き、今後の展望について語っていただいた。

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特別講演210万個の子宮とワクチン

二つ目の特別講演は村中璃子先生(京都大学大学院医学研究科ゲノム医療センター)による、子宮頸がんワクチン副作用問題の真相とワクチンに関する内容だった。昨年ジョンマドックス賞を受賞され多忙となった先生にお越し頂けるか気を揉んでいたが、無事講演頂き安堵した。エビデンスを無視した科学への警鐘を鳴らしていただいた。

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教育講演:新生児側からみたTTTS

前野泰樹先生(聖マリア病院小児科)の司会で、與田仁志先生(東邦大学医学部新生児学講座)にTTTSの新生児を中心に教育講演をしていただいた。長年、TTTSの児に向き合ってこられた経験に裏打ちされた説得力のある内容と新生児科医らしい児への愛の溢れたお話しを拝聴した。

スイーツセミナー

「胎児-胸腔シャント術のダブルバスケットカテーテル市販後調査の中間解析」

と題して、左合治彦先生(国立成育医療研究センター病院)の司会で、高橋雄一郎(国立病院機構ながら医療センター産科)による、我が国でのダブルバスケット・カテーテルの開発とその後の発展、市販後調査の中間解析ということでご講演頂いた。

我が国ではじめて開発されたこのカテーテルも、保険収載された後の市販後調査が漸く最終年となり、世界的にも使用されていくことだろう。

開発に関わられた胎児治療の先駆者で本学会の設立者の千葉喜英先生(Women’s Clinic千葉産婦人科)ならびに八光(株)の高橋浩さんにコメントを頂戴できて光栄だった。

閉会の挨拶

二日間に渡って開催された第16回日本胎児治療学会学術集会も無事閉会となった。東邦大学医学部産科婦人科学講座産科婦人科学ならびに東邦大学医療センター大森病院の皆様、ご協力頂いたすべての方々への感謝の気持ちで溢れた瞬間だった。

会場の後片付けも終わり、スタッフと学会の成功を祝して酒を酌み交わしていると、いつの間にか夜も更けていった。

ありがとうございました

(文責:中田雅彦)

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