新型コロナ妊婦の症例報告

日本では幸いにも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の妊婦さんの報告はまだないですが(2020年3月12日9時時点)、妊娠30週の早産となった症例レポートが中国から報告されたので、簡単に和訳して紹介します。
なお、この論文はウエブサイト上で全文が公開されています。

Abstract. We present a case of a 30-week pregnant woman with the 2019 novel coronavirus (COVID-19) delivering a healthy infant with no evidence of COVID-19.

先日書いた記事で紹介しましたが、今回のウイルスSARS-CoV2は、子宮内での胎児への感染は起きないだろうとの予測されています。今回の症例がどのような経過だったか論文に基づいて以下に記します。


症例:
28歳の妊娠30週の妊婦が、一週間の発熱を主訴に蘇州の病院を受診した。彼女には武漢に3週間滞在した履歴がった。武漢への滞在歴と発熱のため、SARS-CoV2の検査キット(BioGerm, 上海)を用いて咽頭拭い液を検査したが陰性だった。
2月4日に施行した胸部CT検査では、スリガラス様陰影を認めた。2月6日に再度行った喀痰のRT-PCRが陽性となった。そのためCOVID-19対応の施設へ搬送され、陰圧室のICUに隔離された。搬送時のバイタルサインは体温 36.2 ℃、血圧 95/64 mmHg、脈拍 92拍/分、呼吸数 22/分、5L/分の酸素下で酸素飽和度(SpO2) 97%だった。


白血球 10600/µL、好中球 9140/µL、リンパ球 860/µL、CRP 19.6mg/L、プロカルシトニン 0.288ng/mL、アルブミン 2.46 g/dL、LD<LDH> 544 U/L、NT-proBNP 318 ng/mLで、Crとアミノトランスフェラーゼは正常範囲だった。
胎児超音波検査では、児の発育は妊娠30週相当だった。

CT検査の結果やリンパ球減少から、彼女は重症化や早産の可能性が懸念された。
そのため、Arbidol(0.2g 経口投与 8時間毎)ロピナビル/リトナビル(400/100mg 経口投与 8時間毎)、抗菌薬のセフォペラゾン/スルバクタム(3g/回、静注、8時間毎)、アルブミン製剤(20g、静注、連日)を開始し、児の肺成熟目的でデキサメタゾン、早産予防のため硫酸マグネシウムが投与された。

2月8日、CT検査では両側の肺炎を認め、同日胎動の減少と胎児心拍数陣痛図で胎児の心拍数基線の細変動の消失を認めた。4時間の人工呼吸器補助でもその状態は改善しなかった。

そのため、緊急帝王切開が必要と判断され、脊髄くも膜下麻酔併用硬膜外麻酔下に緊急帝王切開が施行された。
陰圧手術室で、すべての医療従事者はN95マスクを装着した状態で帝王切開が施行され、1830gの男児がアプガースコア 9/10(1/5分)の良好な状態で娩出された。

新生児は母体とは隔離され人工乳を与えられた。
分娩時の羊水、胎盤、臍帯血、胃液、咽頭拭い液のRT-PCRはすべて陰性だった。

2月12,15,18日の母と児の咽頭拭い液のRT-PCRは陰性で、CT検査でも改善を認めた。

関わった医療従事者は全員、その後、無症状だった。

Arbidol:ウミフェノビル:ロシアと中国で使用されているインフルエンザ感染症の抗ウイルス治療薬
ロピナビル/リトナビル:カレトラ:HIV / AIDSの治療と予防のための固定用量の併用薬


この症例報告でのポイントは3つあると思います。
1つ目が、母体血中から胎盤を介した児へのウイルス感染がないことです。他のウイルス感染で認めるような先天感染ということは余り怖れなくてもよいのでしょう。
2つ目が、母体の呼吸状態の悪化は、母体の酸素化が不良となり、結果的に、胎児の酸素化が障害されることで、胎児の健康状態が悪化する可能性があると言うことです。逆に言えば、母体の酸素化が保たれて、児の状態が悪化していなければ、妊娠期間の延長を図ることが可能になるということです。
ただし、増大した妊娠子宮は、横隔膜を押し上げるため、母体の呼吸状態に影響します。そのため、母体の呼吸状態を考慮して、「子宮を小さくするため」に早産分娩となることもありうるということです。
3つ目は、ポイントというか疑問というか、抗インフルエンザ薬やHIV治療薬が有効であったかということです。まだ新型コロナウイルスに対する「特効薬」がない状態では、様々な薬剤を投与してみるというのもやむを得ないかも知れません。

いずれにしても、妊婦さんが新型コロナウイルスに感染症を発症したことを想定した対応を常に練っておくことが必要ですね。

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