新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の妊娠への影響と対策への所感(2020年2月27日)

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した妊婦さんが受診したらどうしようか、と率直な疑問が浮かんだが、実像が掴めない。しかし、想定はできるとおもい、この所感を綴った。

ちなみに、昨日時点での妊婦さん向けのざっくりとした情報はすでにアップしている。

新型コロナと妊娠について
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の妊娠に与える影響についてまとめてみました.

肺炎は妊娠中に起きる妊娠以外の要因での感染症として最も頻度の高い疾患の一つである。肺炎を合併した場合、およそ25%が入院し、集中治療室(ICU)での管理(呼吸器管理を含む)を必要とする。妊婦は細胞性免疫が非妊時より変化し、呼吸機能が変化するため、肺炎になると重症化しやすいと考えられている。といっても筆者も実際の診療において肺炎を合併した妊婦を経験したことはほんのわずかしかない。
インフルエンザの流行についていえば、1918-1919年のスペインかぜ流行時の妊婦死亡率は27%にまで達していた。1957-1958年のアジア(香港)かぜの流行では死亡率は10%で、非妊時の倍の率だった。肺炎を合併した際の産科合併症として多かったのは、前期破水、早産、胎児死亡、胎児発育不全や新生児死亡だった。医療が発達し、予防接種が普及し、複数の抗インフルエンザ薬がある現在ではこのような死亡率ということはあり得ないが、妊婦がインフルエンザに罹患した場合は、重症化する可能性があること、流産率か胎児死亡率が増加する可能性があることを念頭に診療を行うことが大切である。

COVID-19の原因であるコロナウイルスの一つであるSARS-CoV-2がどのように妊娠に影響するかはまだわかっていない。しかし、もし妊婦が罹患した場合に備え、なんらかの想定は必要である。そのため、同じベータコロナウイルスで引き起こされたSARSとMERSで得られた情報をみることで、「同じような病態になるかもしれない」ということを想定し医療従事者として備えをしておくことが肝要かと思い、この記事を綴った。限られた時間の中でのレビューなので不十分な情報も多いことを汲んでいただきたい。

ただし、中国でのCOVID-19の感染者が78191人で死亡率が約3.5%ということは(2020年2月26日時点)、SARSやMERSよりは重症化率は低いかも知れないということも念頭に置く必要があるだろう。

2002-2003年のSARSで起きたこと

2002年11月に中国広東省を発端として広がったSARSでは、2003年7月31日までに29カ国で8422例の感染(疑いも含む)を引き起こし916名が死亡した。約30%は医療従事者で、死亡率は11%だった[1].

2003年2月1日から7月31日の期間に香港でSARSを発症した妊婦の調査では[2]、妊娠初期(妊娠13週まで)の7名中4名(57%)が流産となっていたが、その原因はSARSによる呼吸障害で低酸素になったことが原因と考えられた。また、妊娠24週以降の妊婦5名中4名が早産に至った。

SARSに罹患した10名の妊婦と40名の非妊婦を比較した症例対照研究では、妊婦の死亡率は30%にたいして非妊婦での死亡は認めず、腎不全や播種性血管内凝固などの合併症も妊婦が有意に高い罹患率を示していた[3]。妊婦の60%はICU管理となり(非妊婦は18%)、40%は気管挿管による人工呼吸管理が必要だった(非妊婦は13%)。SARS-CoVに感染しSARS病床で管理した妊婦7例をまとめた報告では、死亡率は28%であり、一方、非妊婦の感染例では死亡率は10%以下だったと報告もある[4]。SARSの発生源だった広東省での5名の初妊婦の症例報告では、2名が妊娠第2三半期(妊娠14〜27週の間)、3名が妊娠第3三半期(妊娠28週以降)で感染しており、2名が病院内感染、3名が市中感染だった。5名とも発熱と胸部放射線画像異常を認め、1名が集中治療を必要としたが、全例回復した。出生した5名の新生児はいずれもSARSの徴候は認めなかった[5]。

SARSに罹患した妊婦についての詳細経過を綴った米国からの症例報告もある[6]。香港を旅行した際に感染したと思われる36歳の妊婦は、発熱は認めないものの10日間の咳症状を自覚していた。その後、妊娠19週で発熱、食欲不振や息切れなどの症状を自覚し、肺炎の診断で入院した。軽快し退院した後、前置胎盤のために妊娠38週で帝王切開分娩に至ったが、初感染から130日が経過した母体血漿中には、RT-PCRで検出されるウイルスは存在せず、羊水、臍帯血、胎盤も陰性だった。母体血漿にはすでにSARS-CoVに対する抗体が認められ、抗体は母乳でも認められた。別の米国発症例では、妊娠7週頃に感染したと思われる事例で、発熱や咳、息切れなどで受診し入院加療したが、発症から28日と64日の検査ですでに抗体を認めていた。いずれの児もウイルスのRT-PCRは陰性だった。カナダからの症例報告でも妊娠31週に発症した妊婦も3週間の入院で軽快し、抗体は陽性となり、児の感染は認めないという結果だった[7]。

また、香港でSARSに罹患した5名の妊婦から出生した児に対して行われた、RT-PCR, ウイルス培養、抗体の検査はいずれも陰性で、5名とも何ら呼吸器系の症状は発症しなかった[8]。

SARSの場合、患者が下痢をしたあとにトイレを流した際に作られたエアロゾールによって感染が拡大するという現象も認められた[9]。

2012年のMERSで起きたこと

2012年9月にサウジアラビアで確認されたMERSは、現在までに2494名の患者が確認され858名が死亡している[10]。MERSはわかっている限り「中東」との名前のごとく、全例がアラビア半島近隣諸国経由での感染となっている[11]。MERS-CoVの伝搬経路は他のコロナウイルスと同様に接触感染が主で有り、特に飛沫などを介した感染である。母から児への垂直感染を示す血清学的な結果の報告はない[12]。

MERSに関して妊娠に対してどのような影響を与えるかのデータは限られており、いまだに11例の報告しかない。サウジアラビアから報告された2012年11月から2016年2月までの間の1308例のMERS症例の中で、妊婦は5名のみだった。いずれも妊娠中期以降に罹患し全例が集中治療を受けている。2名が死亡し、児も胎児死亡か新生児死亡となっている。しかも、5名中2名は医療従事者であり、病院内での感染予防対策の徹底の必要性を示すデータである[13]。

詳細な経過を記した症例報告では、大規模病院内での感染拡大によって罹患した看護師が人工呼吸管理まで必要となったが、妊娠32週に帝王切開を施行後、徐々に回復したという記載がある[12]。児は早産児でNICUにて管理を受けたが後遺症はないという。この症例では母体にステロイドであるデキサメタゾンが投与されていたが、それが功を奏したか否かは不明である[12]。他のレポートでは[14]、29歳の妊婦が妊娠6週で、39歳の妊婦が妊娠24週でMERSに罹患し入院加療を受けたが、いずれも回復すると共に咽頭でのMERS-CoVのRT-PCRは陰性化し、出生した児も陰性だった。

一方で、MERSのヨルダンでのアウトブレークでの調査では、妊娠5ヶ月での胎児死亡の症例が報告されているが、患者は感染予防措置をとらずに感染した家族に接していた経緯があった[15]。

 これまで報告されている11例のMERS罹患妊婦では、平均年齢は33.2歳、平均妊娠週数は26.3週だった。2名は家族から、3名は不明だがおそらく動物から感染し、6名は医療従事者だった。妊娠していることがMERSをより重症化させるか否かは症例数が少なく断定はできないが、妊婦の死亡率が27%に対して一般人口での死亡率が35%なので差はないとする研究者もいる[14]。

MERSについては、主に感染地域における感染対策が徹底されていないこと、医療資源が不足していることなどの背景が拡大や重症化に影響していることが推察されるが、妊婦が感染者やラクダ、ラクダの食肉処理現場を避けることが重要である[16]。

COVID-19で想定すべきこと

SARSやMERSと同様とは言えないが、同じベータコロナウイルスであるSARS-CoV-2が同様の病態を引き起こす可能性は念頭に置くべきであろう。そのため、妊婦が肺炎まで合併するようであれば厳重な管理が必要になる。SARSやMERSの報告および数名の症例報告であるCOVID-19の報告[17]からは、このウイルスが母体から胎児へ感染して重篤な影響を及ぼす可能性は低いと考えるのが妥当であろう。また、SARSやMERSに比べ報告されている死亡率が低いことから、重症になりにくいことを願うばかりである。

COVID-19を発症した、あるいは、感染を強く疑う妊婦が発生した場合、周産期母子医療センターでの管理が望ましい。しかし、そこにはすでにハイリスク妊婦が入院や通院している。残念ながら、感染症病床は産科医療を行うことは想定していない。そのため、如何に施設内で連携をとるか、そして、感染拡大を防ぐかという点では、非妊婦の管理では想定できない事態になることが危惧される。状況によっては、一つの周産期母子医療センターを感染症対応専門とすることも考えないといけない事態もあるだろう。

ともかく現時点では、妊婦さんに「不要不急」の外出を控えること、家族を含め感染予防に入念な注意をすることを啓蒙するしかない。

参考文献

  1. WHO, Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome (SARS)(accessed 27 February 2020).
  2. Wong, S.F., et al., Pregnancy and perinatal outcomes of women with severe acute respiratory syndrome. Am J Obstet Gynecol, 2004. 191(1): p. 292-7.
  3. Lam, C.M., et al., A case-controlled study comparing clinical course and outcomes of pregnant and non-pregnant women with severe acute respiratory syndrome. Bjog, 2004. 111(8): p. 771-4.
  4. Maxwell, C., et al., No. 225-Management Guidelines for Obstetric Patients and Neonates Born to Mothers With Suspected or Probable Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS). J Obstet Gynaecol Can, 2017. 39(8): p. e130-e137.
  5. Zhang, J.P., et al., [Clinical analysis of pregnancy in second and third trimesters complicated severe acute respiratory syndrome]. Zhonghua Fu Chan Ke Za Zhi, 2003. 38(8): p. 516-20.
  6. Robertson, C.A., et al., SARS and pregnancy: a case report. Emerg Infect Dis, 2004. 10(2): p. 345-8.
  7. Yudin, M.H., et al., Severe acute respiratory syndrome in pregnancy. Obstet Gynecol, 2005. 105(1): p. 124-7.
  8. Shek, C.C., et al., Infants born to mothers with severe acute respiratory syndrome. Pediatrics, 2003. 112(4): p. e254.
  9. Hung, L.S., The SARS epidemic in Hong Kong: what lessons have we learned? J R Soc Med, 2003. 96(8): p. 374-8.
  10. WHO. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)(accessed 27 February 2020). [cited 2020 27 February]; Available from: https://www.who.int/emergencies/mers-cov/en/.
  11. Center for Disease Control and Prevention, Information about Middle East Respiratory Syndrome(MERS)(accessed 27 February 2020). 2015.
  12. Alserehi, H., et al., Impact of Middle East Respiratory Syndrome coronavirus (MERS-CoV) on pregnancy and perinatal outcome. BMC Infect Dis, 2016. 16(105): p. 105.
  13. Assiri, A., et al., Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus Infection During Pregnancy: A Report of 5 Cases From Saudi Arabia. Clin Infect Dis, 2016. 63(7): p. 951-3.
  14. Alfaraj, S.H., J.A. Al-Tawfiq, and Z.A. Memish, Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV) infection during pregnancy: Report of two cases & review of the literature. J Microbiol Immunol Infect, 2019. 52(3): p. 501-503.
  15. Payne, D.C., et al., Stillbirth during infection with Middle East respiratory syndrome coronavirus. J Infect Dis, 2014. 209(12): p. 1870-2.
  16. Hemida, M.G., et al., Dromedary Camels and the Transmission of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV). Transbound Emerg Dis, 2017. 64(2): p. 344-353.
  17. Chen, H., et al., Clinical characteristics and intrauterine vertical transmission potential of COVID-19 infection in nine pregnant women: a retrospective review of medical records. The Lancet, 2020.

 

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