伝染性紅斑の患者が急増!
11月下旬、東京都から伝染性紅斑の患者数が警報基準を超えたとのアナウンスがありました。
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/11/21/15.html
下図は東京都のサイトからの引用です。
主にお子さんが罹る感染症ですが、ニュースをみていて気になったので解説します。
伝染性紅斑とは?
伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は、リンゴ病 と一般に呼ばれる感染症です。
第5病(Fifth disease)と呼ばれることもあります。なぜ5番目かというと、小児の感染症として代表的な麻疹,風疹,水痘,突発性発疹という4つの感染症の次ということで5番目になっています。
画像のように、ほほに出現する赤い発疹(紅斑)を特徴としていて、両ほほがリンゴのよう に赤くなることから、「リンゴ病」と呼ばれることがあります。
ヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下B19)による感染が原因ということが約30年前に明らかになりました。
症状の特徴は、ほほの赤い発疹ですが、手や足のレース状の発疹、体幹の発疹も認めることがあります。
成人では、関節痛や頭痛が主症状となることもありますが、ほとんどの場合、合併症を起こすこともなく、自然に治癒します。
伝染性紅斑では、10〜20日の潜伏期間を経た後に発疹が出ますが、その時点ではすでにウイルス血症の状態は終わっており、無症状の時期にウイルスが排泄されるため、気づかないうちに周囲に感染を拡げることになります。
伝搬経路は飛沫感染や接触感染で、潜伏期間中のため、予防を図ることが難しい感染症です。
なぜ妊婦がパルボウイルスB19に感染したら困る?
伝染性紅斑自体は、重症化がまれであり自然治癒する疾患ですので、対症療法で経過を診ることがほとんどです。
しかし、妊娠中に感染した場合には注意が必要です。
というのも、パルボウイルスB19の受容体は赤血球の膜表面にあるP抗原なので、このウイルスは赤芽球になる前駆細胞に感染して 増殖する。
胎児に感染が起きると、造血が障害されて胎児が重度の貧血になることがあります。その結果、体中に水の溜まる「胎児水腫」という状態になったり、流産・胎児死亡を引き起こすことがあります。
そのため、一般成人が感染したときとは別に慎重な経過観察が必要になります。
なお、母体の感染の有無の判定には、血液中のIgM(場合によってはIgGも)を測定して判定するのが一般的です。
パルボウイルスB19の妊娠(胎児)に与える影響
母体が感染した場合、2−3割程度の可能性で胎児に感染が起きます。そしてその1割程度が胎児水腫を引き起こします。
胎児死亡は全体で6%に合併しますが、ほとんどが妊娠20週以前に合併し、妊娠20週以降の場合はほとんど認められません。
また、妊娠13週までの妊娠初期に13%であった胎児死亡率は、13週から20週になると9%に低下します。
つまり、妊娠の初期であるほど影響が強くなります。
妊娠中に感染がわかったら?
血液検査などで感染が判明した場合、定期的に超音波検査によって胎児の状態を評価します。
胎児貧血が進行し胎児水腫となるようであれば、胎児輸血という特殊な技術による治療が必要になる場合があります(ちなみに当院では胎児輸血が可能です)。
重度な貧血を疑わない状況であれば、経過観察で自然に児の状態が改善することも多く、一回の検査ですぐに判断せずに、定期的に複数回の診療を行って判断します。
伝染性紅斑はおおむね5年に一度の流行を迎えると言われていますが、今年は注意が必要ですね。
基本的な感染対策ですが、感染を疑う人がいたら、手洗いやマスクの着用などを行うとしかいえないのが現状です。
ご心配な妊婦さんはご相談ください。
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