多胎妊娠とは
多胎妊娠とは、複数の胎児が子宮の中にいることを表します。
多胎妊娠といっても、大半の方は、双子、つまり双胎妊娠です。数は多くないですが、三つ子(三胎妊娠)、四つ子(四胎妊娠)と言った場合もあります。
これに対して、赤ちゃんが一人のことを単胎妊娠と呼びます。
多胎妊娠と単胎妊娠の違い
多胎妊娠が単胎妊娠と最も違う点は、「胎児が二人以上いること」によって引き起こされる様々な事柄です。
胎児が複数と言うことは、それだけ子宮は大きくなります。単胎妊娠の方に比べて、同じ週数でも子宮の大きさが大きく異なります。
例えば、妊娠30週頃だと、胎児は通常1500g程度の大きさになりますが、二人だと合わせて3000gになります。つまり、すでに“満期”の子宮の大きさになるのです。
それだけ大きくなれば、早産となる可能性も高くなります。
また、一つの子宮の中で成長していきますので、胎児の成長が一人の時に比べて遅れることがあります。「胎児発育不全」という状況になるとがあるのです。
その他、お母さん(母体)では、妊娠高血圧症候群や貧血などの合併症が起きる可能性が高くなります。
また、胎盤の数によっては、「双胎間輸血症候群」といった胎児にとって大変な状態になることもあります。
多胎妊娠の現状
多胎妊娠の中でも最も数の多い双胎妊娠についての統計結果は右の図になります。1995年以降の双胎妊娠の分娩件数を人口動態調査から算出したグラフになります。
日本では、一年間に約100万人の分娩がありますが、その中で双胎妊娠は約1%、つまり、1万件となっています。1万件ということは多くの場合、二人の赤ちゃんが出生しますので、約50人に一人の赤ちゃんが双胎妊娠と言うことになります。
三つ子の場合、とても興味深いデータとなります。
左の図のように、双胎妊娠と比べて、三つ子はどんどん減っている、ということがわかります。これは、主に不妊症の治療としての生殖補助医療において、胎妊娠をできるだけ防ぐために、子宮の中にもどす受精卵の数を制限するように変えたことが影響しています。
生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解については下記をご参照下さい。
多胎妊娠の種類
多胎妊娠の中でも、双胎妊娠を中心に解説します。
一般に一卵性、二卵性とといういい方をされますが、医学的には、あまり一卵性、二卵性ということは意味をなしません。医学的というのは、あくまで周産期管理(産科管理および新生児管理)においてのことです。
一方、医学的に重要なことは「膜性診断」による分類です。両者の関係は下記の表のようになります。
卵性診断 | 膜性診断 |
二卵性双胎 | 二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎) |
一卵性双胎 | 一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎) |
一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎) | |
二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎) |
二卵性双胎とは
二卵性、つまり、受精卵が2つということは、それぞれの受精卵がそれぞれ“独立して成長する”ということになります。そのため、二人の胎児は“別々”なユニットとなります。
この図では、ピンク色をした部分が羊膜とよばれ、茶色の部分が絨毛膜と呼ばれます(実際はこの色ではありません)。
絨毛膜の一部が分厚くなっていて、そこが胎盤になります。
つまり、原則的には、二卵性双胎では、胎盤が2つある二絨毛膜二羊膜双胎ということになります。
この膜性診断の語句である二絨毛二羊膜双胎のことを英語で、Dichorionic Diamniotic Twin と呼ぶため、略してDD twin(DD双胎)と呼ばれています。
二卵性でも特殊な状況では胎盤が一つになりますが、込み入った話になりますのでここでは割愛します(下記の論文をご参考下さい)。
二卵性双胎は、人種や地域によってその頻度が異なります。アフリカ大陸での頻度は高く、日本は頻度が最も低い地域の一つです。ただし、排卵誘発剤や生殖補助医療といった不妊症の治療によって、その発生頻度は左右されます。
一卵性双胎とは
一卵性双胎とは、文字通り「一卵」つまり一つの受精卵からできた双子になります。
人種を問わず、250人の妊婦さんに一人が一卵性双胎となります。なので、我が国では一年間に約4000人の一卵性双胎の分娩があると推定されます
(ということは、年間1万人の双子の分娩数なので、二卵性は6000人/年と考えられます)
この場合、膜性診断では、三つのバターンに分かれます。
二絨毛膜二羊膜 | 絨毛膜(胎盤)が二枚、羊膜が二枚 |
一絨毛膜二羊膜 | 絨毛膜(胎盤)が一枚、羊膜が二枚 |
一絨毛膜一羊膜 | 絨毛膜(胎盤)が一枚、羊膜が一枚 |
これらのどの双子のパターンになるかは、受精卵が出来た後にどれぐらいの時期に2つに分かれるかで決まってきます。受精後4日以内であれば二絨毛膜二羊膜、4-7日であれば一絨毛膜二羊膜、7日以後であれば一絨毛膜一羊膜になる、と考えられています。
膜性診断の大切さ
一卵性、二卵性で区別するのではなく、どうして、膜性診断による分類が必要なのでしょうか。
実は、絨毛膜が1つ、つまり、胎盤が一つの場合、それぞれの胎児循環が繋がるということが起きるからです。その場合、双胎間輸血症候群などの合併症が起こるため、区別するための診断が必要となります。
一絨毛膜双胎に合併するいろいろな疾患について下記に羅列します。
双胎間輸血症候群 Twin Twin Transfusion Syndrome (TTTS) |
双胎一児胎児死亡 Single fetal death (demise) |
一児重症発育不全 Selective Intrauterine Growth Restriction (selective IUGR) |
無心体双胎におけるTRAP Sequence |
これらの疾患については徐々に記載を増やしますね。
双胎間輸血症候群の詳細はこちらをクリックしてください。
膜性診断について
- 二絨毛膜二羊膜双胎 Dichorionic Diamniotic Twin (DD双胎)
- 一絨毛膜二羊膜双胎 Monochorionic Diamniotic Twin (MD双胎)
- 一絨毛膜一羊膜双胎 Monochorionic Monoamniotic Twin(MM双胎)
これら三つの双胎を妊娠初期に見分ける(鑑別)することはとても大切なことです。そのため、妊娠初期に患者さんが受診された場合、経腟超音波検査法という方法で子宮の中を観察します。
二絨毛膜二羊膜双胎
DD双胎では子宮の中で、“それぞれの受精卵”が着床して育つため、上の超音波断層像のように、二つの胎嚢がはっきりと分かれてみえます。
一絨毛膜二羊膜双胎
一絨毛膜双胎では、絨毛膜が一つ、つまり、“胎盤が一つ”となります。
下の超音波画像のように、ぐるりと一周、きらきらとした白っぽい絨毛膜に囲まれた中に胎児を二人認めます。
一絨毛膜一羊膜双胎
このタイプの場合、上の画像では、二人の胎児はそれぞれの羊膜に包まれていますが、一羊膜ですので一つの羊膜の中に二人の胎児が存在します。
このように、膜性診断というのは、妊娠初期に行って、胎盤が二つの双子なのか、胎盤が一つの双子なのかを鑑別することが重要になります。
膜性診断はいつ頃にするの?
膜性診断について、まずは絨毛膜性、続いて羊膜性という二段階で診断するのが望ましいでしょう。
なぜ二段階かというと、あまりに早期だと、一絨毛膜性と診断はできても羊膜が“よくみえない”という状態になります。
羊膜が一枚か二枚かは、妊娠14週頃までに診断がつけば大丈夫と言えます。
三つ子(以上)の多胎について
今までは、双子の話をしてきましたが、三つ子(三胎)でも膜性診断は大切です。
ただし、この場合はもっと話が複雑になります。
一絨毛膜一羊膜三胎 | 三人が1つの羊膜に入っている(極めて稀) | 一卵性 |
一絨毛膜二羊膜三胎 | 一人が1つの羊膜腔、二人が別の一つの羊膜腔(稀) | 一卵性 |
一絨毛膜三羊膜三胎 | 三人が3つの羊膜腔(絨毛膜は1つ) | 一卵性 |
二絨毛膜三羊膜三胎 | 一絨毛膜二羊膜の双子と別の絨毛膜の子の組み合わせ | 一卵性か二卵性か |
三絨毛膜三羊膜三胎 | 三人の子がそれぞれ別の絨毛膜で分かれている | 一卵性か二卵性か三卵性 |