妊娠初期血液検査(2) B型肝炎ウイルス検査

妊娠が確定すると,妊婦健診が始まります。
妊娠初期に行う血液検査には,様々な種類がありますが,B型肝炎ウイルス抗原検査を行います。
なぜ検査が必要なのか、そして、母子感染を防ぐための対策について解説します。

B型肝炎とは

B型肝炎はB型肝炎ウイルス(Hepatits BVirus: HBV)が血液や体液などを介して感染して起きる肝臓の病気です。
B型肝炎は、急性肝炎と慢性肝炎の大きく2つに分けられます。
B型急性肝炎は、肝炎の症状(全身のだるさ、食欲低下、吐き気、嘔吐、褐色の尿、黄疸など)が軽くて自分では気づかないうちに治ってしまう程度から、劇症肝炎といって生命を維持できないほど肝臓の炎症がひどくなり肝不全を引き起こすものまで様々です。
発症後、免疫反応がおき、HBVに対する抗体ができます。
一方、B型慢性肝炎は、ウイルスが感染した後に免疫系が上手く働かなくて、ウイルスが持続的に体の中に存在し続ける状態(持続感染)によって引き起こされます。
特に、出産時や乳幼児期に感染が起きると、持続感染の状態となりやすいです。
感染したウイルスは体内で存在し続けるため、この状態を無症候性キャリアと呼びます。
そして思春期から成人になるに従って、免疫系がウイルスを認識し、異物として攻撃して排除しようとすると、感染している肝臓の細胞が壊されて肝炎が起きます。
肝炎が起きても8割から9割の人は、肝炎がおさまっていき、非活動性キャリアになります。
肝炎の状態がおさまらずに続行く人が1〜2割であり、慢性肝炎の状態となります。
慢性肝炎の状態が持続すると、次第に肝臓の機能が低下し肝硬変となり、肝細胞癌を合併する場合があります。

 

B型肝炎ウイルスの検査

B型肝炎ウイルスに感染しているか、否かを調べる検査として、まず、HBs抗原の検査をします。
検査結果通知書では、HBs抗原 HBsAgなどと書かれている場合もあります。
HBs抗原が陽性であれば、100%感染していると考えられ、陰性の場合、特殊な状況を除いて感染していないと判断します。

・HBs抗原(HBsAg)が陽性の場合は、次に、HBe抗原とHBe抗体(sではなくeです)を調べます。
・HBe抗原が陽性・HBe抗体陰性の場合は、ウイルスの増殖力が強く、肝炎の活動性が高い時期で、他の人への感染が高くなります。
・HBe抗原が陰性・HBe抗体陽性の場合は、ウイルスの増殖力は弱く、肝炎の活動生は低くなっており、他の人への感染の可能性は低くなります。

HBs抗体は、急性肝炎が治癒した人、B型肝炎ワクチンを接種し抗体ができた人の場合に陽性となります。中和抗体と呼ばれるものです。
HBs抗体が陽性ということは、ウイルスに対する免疫反応が起きる状態を意味しますので、ウイルスが体内に入っても缶s年を防ぐ役割をします。

妊娠初期検査でHBs抗原が陽性だったら?

妊婦さんがHBs抗原が陽性だった場合、キャリアの状態ですので、まずは妊婦さん自身の感染の状態が、非活動性キャリアなのか、慢性肝炎(活動性のキャリア)の状態なのか、検査を行います。
上で述べた、HBe抗原・HBe抗体の検査を行います。
HBe抗原陽性の妊婦さん(ハイリスク群)から出生した児は感染防止策を取らなければ80~90%の可能性でキャリアとなります。
HBe抗原陰性の妊婦さん(ローリスク群)から出生した児がキャリアになることはほとんどありませんが、出生後、10%程度に一過性感染が起こり急性肝炎や劇症肝炎が発生するといわれています。
いずれにしても、妊婦さん自身の肝臓の機能や肝炎の状態を判断し、適切に管理するために、消化器内科と連携をとって診療します。

胎内感染の可能性は?

妊婦さん自身の体内ウイルス量が多いと、分娩時ではなく、妊娠中に胎内感染が起きる可能性があります。
ウイルス量は、ウイルスのDNAの量を調べることで判断しますが、ウイルス量が高かったり、活動性肝炎と判断した場合には、妊娠中でもさまざまな抗ウイルス薬(テノホビルなど)を使用し治療を開始する場合があります。抗ウイルス薬については、胎児への安全性が比較的高いされています。
核酸アナログに分類される抗ウイルス薬の開発によって妊娠中の投与が行われるようになったのは、比較的最近のことですが、後に述べる出生後感染予防対策では、防ぎきれなかった児への感染率を下げる方法として注目されています。
詳しくは日本肝臓病学会B型肝炎治療ガイドラインをご参照ください。

母子感染予防対策とは

HBs抗原が陽性の妊婦さんから出生したすべての児はすべて「B型肝炎母子感染防止対策」の対象になります。
妊娠中に前に述べた抗ウイルス薬によってHBs抗原が陰性化した妊婦さんから出生した児も対象になります。


HBs抗原が陽性の妊婦さんから出生した児:

・出生後,HBグロブリン(抗B型肝炎ウイルスグロブリン)とB型肝炎ワクチンを注射します

・生後1か月、B型肝炎ワクチンを注射します
・生後6か月、B型肝炎ワクチンを注射します
・生後9~12か月を目安に、児が感染していないかの判断のため、HBs抗原とHBs抗体検査を実施します。
児の経過観察については、小児科医と連携して行います。

母乳栄養は大丈夫?

HBs抗原陽性の場合、出産後の母乳栄養について心配されることが多いですが、児にはワクチン接種のプログラムがあります。
実際、母乳に関しては,母乳栄養児と人工栄養児との間でキャリア化に差が認められないため、母乳栄養を禁止する必要はありませんので、安心して授乳をお願いします。

 

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