妊娠初期血液検査(3) C型肝炎ウイルス検査

妊娠が確定すると,妊婦健診が始まります。
妊娠初期に行う血液検査には,様々な種類がありますが,C型肝炎ウイルス抗体検査を行います。
なぜ検査が必要なのか、そして、母子感染を防ぐための対策について解説します。

C型肝炎とは

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(Hepatits C Virus: HCV)が血液や体液などを介して感染して起きる肝臓の病気です。
私が医学を学んでいた時代は、まだこのウイルスについては明らかではありませんでした。
ただ、なぜか輸血を行った患者さんに肝炎が引き起こされることが多いということで「非A非B肝炎」と呼ばれていました。つまり、A型肝炎でもないしB型肝炎でもない肝炎、という意味です。
1992年頃からは、C型肝炎ウイルス検査を行って陰性の輸血が行われるようになりましたので、輸血によるリスクはほとんどなくなっています。

HCVに感染すると約70%の人が持続感染者となります。そして慢性肝炎→肝硬変→肝がんと進行する場合があります。
現在我が国では約100万人程度のHCV感染者がいると考えられていて、その中には感染がわかっていない人やわかっていても通院されていない人が多いようです。
慢性肝炎、肝硬変、肝がん患者の約60%がHCV感染者で、未だに年間2万5千人が肝がんにより亡くなっています。

C型肝炎は、慢性肝炎の段階ではほとんどの場合、自覚症状がありません。
何となく体がだるいとか、疲れやすいとか、食欲がわかないといった症状など、ほかの病気でみられるような症状のことが多く、自覚症状がないまま肝硬変に進行した患者さん、肝がんができても症状がでない患者さんも多いようです。
といっても私の経験では妊婦さんの大半はC型肝炎に罹られている方はいませんが、初期血液検査を行うことで早めに気づくことができれば、その後の妊婦さんの長い人生やお子さんのための対策が可能となります。

C型肝炎ウイルスの検査

C型肝炎ウイルスに感染しているかを調べる検査として、まず、HCV抗体の検査をします。
HCV抗体陽性の場合、「抗体」が陽性、つまり、C型肝炎ウイルスに一度は感染したことを意味します。
しかし、現在も持続感染をしている人なのか、治癒をしてウイルスのいない人なのか、はわかりません。
そこで、次に精密検査としてHCV核酸増幅検査(HCV-RNA定量検査という、血液中にC型肝炎ウイルス遺伝子があるかどうかを調べる検査をおこないます。
・HCV-RNA定量が陰性であれば、治癒してウイルスがいないことになるので母子感染の心配はありません。
・HCV-RNA定量が陽性(キャリア)であれば、現在C型肝炎ウイルスに感染していることを意味しますので母子感染のリスクがあります。

HCVキャリアと診断されたら?

HCVキャリア、つまりHCV-RNA陽性の場合の母子感染率は約6%と報告されています。
母子感染のリスクが高くなるのは、妊婦さんのウイルス量が高い場合です。
特になにも自覚症状のない妊婦さんもいますが、肝臓の検査と現在のウイルス量の状態をチェックするために、肝臓専門医と連携をとって診療にあたります。

分娩方法、授乳について

HCVキャリアの妊婦さんの分娩法法ですが、以前は帝王切開が母子感染を減少させるのではと言われてきましたが、帝王切開と経腟分娩との比較で違いはないというエビデンスレベルの高い報告があるため、あえて帝王切開を選択することにメリットはないと考えられています。
そのため当院では原則的に経腟分娩の方針です。

授乳(母乳育児)については、特に授乳が母子感染率を上昇することはないという報告があり、授乳を制限する必要はありません。

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