妊娠初期血液検査(4)梅毒

妊娠が確定すると,妊婦健診が始まります。
妊娠初期に行う血液検査には,様々な種類がありますが,梅毒血清反応検査を行います。
なぜ検査が必要なのか、そして、母子感染を防ぐための対策について解説します。

梅毒とは

梅毒とは、梅毒トレポネーマ(学名:Treponema pallidum)という病原体により引き起こされる感染症です。図のようならせん状になっているのが梅毒トレポネーマです。
主にセックスなどの性的接触により、口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。
オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染します。また、一度治っても再び感染することがあります。
梅毒に感染すると、性器や口の中に小豆から指先くらいのしこりができたり、痛み、かゆみのない発疹が手のひらや体中に広がることがあります。
また、これらの症状が消えても感染力が残っているのが特徴です。
治療をしないまま放置していると、数年から数十年の間に心臓や血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、時には死にいたることもあります。 
このように長期間にわたって、しかも、あまりはっきりとしない症状のまま経過することがあり、検査で陽性になるまで感染していることを気づかない患者さんもいます。
そのため、 ”The Great Imitator (模倣の名人)” と呼ばれています。

 

 

梅毒患者が増えている

世界的にもそうですが、日本でも年々梅毒患者が増えています。
下の図は、国立感染症研究所が発表している日本の梅毒症例の動向についてですが、男性も女性も2013年からの動向をみると増加の一途をたどっています。
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2022q4/syphilis2022q4.pdf

妊娠中に梅毒に感染する

妊娠中に梅毒に感染した場合の問題点として、
妊婦さん自身だけでなく、胎盤を通じて胎児にも感染を引き起こすということが上げられます。
胎盤を通じて、梅毒スピロヘータが胎児にたどりつき、先天梅毒といって中枢神経などに異常を来す場合があります。
また、流産や早産に至る場合もあり、適切な母子感染対策が必要となります。
そのため、妊婦健診では、かならず梅毒血清検査を行います。

梅毒血清検査とは

梅毒スクリーニング検査は、通常以下の2種類を行います。
・カルジオリピンを抗原とする脂質抗体検査法(非特異的検査 STS)→RPR法
・梅毒とレポネーマを抗原とするトレポネーマ抗体検査法(特異的検査)→通常はTPHA法
2つの検査法の結果は少し解釈がややこしくなりますが、ざっくり言えば
RPR法は、感染していれば陽性、ただし、自己免疫疾患などでも陽性になる(生物学的擬陽性)。感染のごく初期には陰性。
TPHA法は、感染していれば陽性となるが、治癒後の梅毒(陳旧性梅毒)でも陽性になる
という特徴があり、2つを加味して感染状況を診断します。

梅毒と診断されたら

 妊娠中に梅毒と診断されても、適切に治療を行えば先天梅毒の可能性を限りなく低くすることができます。
治療は、ペニシリン系の抗菌薬を服用するのが基本で、ペニシリンアレルギーがある場合には、ミノサイクリンやドキシサイクリンといった抗菌薬を使用します。
治療を開始し、検査値をみることで、治療効果を判定します。
もちろんですが、パートナーの検査も大切で、パートナーの感染状況を把握し、同時に治療することが必要となる場合が多いです。

ちなみに、梅毒について、東京都性感染症ナビ に詳細がありますのでご参考下さい

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