風疹の流行
今年は哀しいかな、風疹が流行し始めている。すでに多くのメディアがそのことを報じている。
首都圏でアウトブレークし、徐々に全国に流行が及んできている。
風疹はなぜ困る
風疹を発症しても多くの場合は、発熱や咳、発疹という症状であり、かかった人自体が命の危険にさらされることは少ない。脳炎などを合併することもあるが、大半は重症化しない。そのため「三日ばしか」と呼ばれている。
しかし、妊婦さんがかかると大変になることがある。
妊婦さんが妊娠の初期から中期、およそ妊娠20週までにかかってしまい、その風疹ウイルスが胎児への感染を起こした場合に、先天性風疹症候群を引き起こすことがある。
流行しているからといって妊婦さんに「外出を避けましょう」といっても、正直無理だろう。誰にもあわずに買い物ができることはないし、仕事だって行かなくちゃいけない。
妊婦健診をしていて思うことは、「免疫力のない妊婦さんがかかりませんように」という願いにも似た望みである。
先天性風疹症候群とは
先天性風疹症候群とは、白内障、難聴、先天性心疾患の3つを特徴とする胎内感染による胎児の病気である。出生後、目が見えず、耳が聞こえず、心臓病を患うという、その子にとってみれば、とても大変な状況となる。当然ではあるが産んだお母さん、お父さんの心痛は想像しがたいほどだ。
防ぐことのできる病気
風疹にしても先天性風疹症候群にしても、「防ぐことのできる病気」である。
ここでいう“防ぐ”というのは、“今の流行をすぐさま防ぐことができる”という意味ではない。
風疹は、患者さんの咳やくしゃみなどからの「飛沫」を吸い込んでおきる飛沫感染とそれらが付着手などから感染する接触感染の両者があり、なかなか拡大を抑えるのが難しいだろう。
飛沫感染を防ぐマスクや接触感染を防ぐための手洗いの徹底をしても完全には防ぐことができないのが悩ましい。
私が「防ぐことができる」と述べたのは、ワクチン接種である。
予防接種法という法律では、風疹は、定期の予防接種(一類疾病)というものに分類されていて、
予防接種法及び結核予防法による定期の予防接種は市町村長が行うこととされており,予防接種法に基づく一類疾病及び結核予防法に基づく結核の予防接種の対象者は予防接種を受けるよう努めなければならないこととされている
と位置づけられている。
実際には、「生後12月から生後90月に至るまでの間にある者」が対象で、第1回の摂取は、「生後12月に達した時から生後36月に達するまでの期間」つまり、1歳から3歳の間に日本では、摂取が行われている。
ただし、その時の子供さんの体調、都合(?)などから、100%の人がワクチン接種を受けていないのが現状である。
およそ97%の子供達が第1期のワクチンを受けているということだが、これは言い換えれば3%の子供達が受けていないということになる。一年の年代で100万人弱の子供さんがいるとすれば、3万人もの人が受けていないことになる。
しかもワクチンをうっても、「抗体」ができなければ意味がない。「抗体」というのは、ウイルスに対する免疫がある、ということで、これができなければワクチンの効果はない。
以前に、天然痘という世界を恐怖に陥れた感染症があった(詳しいことは以下の記事などを参照)。1972年に天然痘に対する種痘というワクチンと同じように免疫をもたせるための製作は終わりましたが、人類が感染症に「勝利」した良い例だろう。そのため現時点で46歳か47歳以上人は、肩に種痘のあとがある。
意識の差
天然痘、日本脳炎、新型インフルエンザなど、これらの感染症は、かかった本人への命の危険性が常に付きまとう。
つまり、人々の意識に「怖れ」を抱かせる。怖れという意識はとても強いもので、理屈を超えて人々の行動に影響する。
怖れとワクチンの関係で有名なものが、子宮頸がんワクチンのことであるが、そのことについては本題からそれるので割愛する(興味のある方はこちらを→https://tiny-life.org/2017/12/14/post-557/)。
風疹の場合、先に述べたように本人が風邪をひいた、ぐらいの感覚ですごすことも多いし、「死にますよ」とは誰も報道しない。妊婦さんがかかった場合に大変、といっても自分には関係ないと思えば、積極的にワクチン接種を受ける人は少ない。
しかし、次世代に未来をたくしたいというのが人類の共通の望みだとしたら、産まれもって病気になることを約束された将来を避けることができることは、望ましいことでは内だろうか。
風疹への免疫のない人、全員にワクチンを!
先天性風疹症候群を防ぐためには、風疹の流行を防ぐことが根本的な解決である。
そのため、今と同じように小児期にワクチン接種を行うと共に、女性でも男性でも、ある年齢になったら抗体価を調べて、ワクチンを接種することが望ましい。
高校生になったとき、成人式のころ、30歳の頃、40歳の頃、皆さんを検査してワクチンを打てば、根絶はできないまでも、先天性風疹症候群で苦しむ子供達の数を減らすことができる。
ワクチンが高い
日本のワクチンはどうしてあんなにも高価なのだろうか?
自治体によっては、風疹の抗体価の低い人、つまり、今後風疹にかかる可能性の高い人に対するワクチン接種を全額補助してくれるところもあるが、自治体の政策や予算によってその方針はばらばらだ。
ちなみに、インドでは、どうやら700円ぐらいで、風疹を含んだMMRワクチンが受けられるらしい。日本では、1万円ぐらいだろうか。
WHOのリポートでも、各国によってワクチンの費用が大きく異なることが示されている。
ちなみに、MMRワクチンは、国によって14倍の開きがある。
このあたりのことは医療経済であり、医療政策であり、様々な事情があるのだろうが、そこを改善しないとどうしようもないだろう。
安価なワクチン、ではなく、ワクチンを安価にしてほしい。
ストップ風疹
風疹は防ぐことのできる感染症である。
我が子を先天性風疹症候群で亡くされた方が精力的な活動をされている。
本当に世界中から先天性風疹症候群をなくそうと思えば、個人の地道な努力にこたえる大きな政策が必要だと想いながら、憂う秋の日だ。
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