「隔離の島」ル・クレジオ:天然痘による隔離

読書

フランスのノーベル賞作家ル・クレジオの作品。
原題は「La Quarantaine」で、英語だとquarantine。ラテン語の数詞 “quadrāgēsimus” から派生した語句らしい。
病気からの「検疫・隔離」を意味する言葉で、日本では自粛に頼るしかないこの語句は、元々40日間という意味である。
ベストが流行していたとき、病人を40日間隔離することから派生して、40日間という語句が、隔離・検疫を表すようになったらしい。言葉は奥が深い。まぁ、それはおいといて🤭

物語は、作者の祖先の故郷、モーリシャスの小島を舞台にしている。1800年代後半、語り手の祖父夫婦と叔祖父がモーリシャス島に向かう船の中で、乗員に天然痘が発症した。そのため、モーリシャス島の政治をつかさどる人々は、船を本島に近づけることを認めず、近くの小島で隔離することとした。
強制的に隔離となった人々は、いつ迎えに来るかもわからぬ本島からの船を待ちながら孤島で40日間の苦闘を強いられる。

カミュの「ペスト」は北アフリカの街を舞台にしていて、都市機能が維持された街での隔離だが、こちらの方は、食料もままならない状況下で、灼熱の太陽と蚊と飢えに苦しむ。その生活ははるかに凄惨である。

文章は散文的で、叙情に満ちた語りをする。様々な情景や様々な人物の生き方が重層に織りなし、しかも、インド、フランス、モーリシャスでの物語が入り乱れる。叔叔父レオンが語っている100年前と1980年代のレオンの語りが錯綜することで長い時が重なる。
エメラルドグリーンのラグーン、マラリアを媒介する蚊🦟、賎民として土着している人々。強制労働のインド人。そこに留め置かれたフランス人🇫🇷
590頁もある物語で読了するのは容易ではなかった。しかも文庫本なのに1500円。
100年前の祖父と叔祖父、酒場でみた詩人ランボー、祖母の記憶、叔叔父の恋人の物語が終盤には1980年代の自分につながる。

死の恐怖からか、孤島での絶望感からか、精神を病む人々も出る中でも懸命に生きる人々がいる。

彼のモーリシャス三部作の2作目にあたるらしい。1作目と3作目を携えてスマホもパソコンも持たずに南の島にいって、のんびりとすべてを読破できたらいいな。

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