学会などの仕事が入っていない日曜日は、極力論文を読まないようにしている。
でも、ランナーズonline から興味深いデータが紹介されてきたので少し調べてみた。
ランニングがコロナ重症率を低下させる!?
ランナーズ5月号に掲載の記事
ついにデータで証明された!
「走ることで心肺機能を高めれば新型コロナの重症化率が低下する」
は、今年2月に開催された第34回ランニング学会のプレゼンテーションを掲載している。
このプレゼンに引用されているのが、以下の論文である。
最大運動強度とコロナウィルスによるの入院率の関係
と題した論文で、私の感想としては、そうであって欲しいな、と思っていたことがやっぱりそうだったという内容である。
コロナ感染拡大前に測定していた最大運動強度を用いた研究
この研究の特徴は、COVID-19パンデミックが起きる前に、なんらかの理由で測定していた患者の最大運動強度を用いていることで、この研究者らもまさかその後にパンデミックが起きるとは予想もしていなかっただろう。
最大運動強度
この研究では、運動強度を metabolic equivalents of task (METs) という指標を用いて測っている。
METs(メッツ)とは、
運動強度の単位で、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの。メッツとは運動や身体活動の強度の単位です。
安静時(静かに座っている状態)を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示します。歩く・軽い筋トレをする・掃除機をかける・洗車する・子どもと遊ぶなどは3メッツ程度、やや速歩・ゴルフ(ラウンド)・通勤で自転車に乗る・階段をゆっくり上るなどは4メッツ程度、ゆっくりとしたジョギングなどは6メッツ、エアロビクスなどは7メッツ、ランニング・クロールで泳ぐ・重い荷物を運搬するなどは8メッツ程度といったように、様々な活動の強度が明らかになっています。
と解説してあります。 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.htmlから引用。
実際には、トレッドミルというランニングマシーンというかベルトコンベアみたいなものの上で歩いたり走ったりということで様々なものを測定します。(詳しくはこちら↓を)
循環器疾患領域では、運動負荷を加えることで、いわゆる狭心症などの心電図変化があるか、というのを調べますが、患者さんの個々の最大の運動強度を測定できることができます。
この研究では、この最大のMETsの値を調べています。
ちなみにMETsの目安としてはこの図が参考になります↓
新型コロナ感染症で入院した人は最大METsが低い
この研究では、246人の対象者を対象として、2016〜2020年の間に、予め測定しておいた最大METsとその後入院したグループとそうでないグループの最大METsを比較しています。
ちなみに、この対象者の平均年齢は59歳(±12歳)ということで中高年が対象です。私の年齢ぐらいということです。男性が42%、女性が58%なので性別の偏りはあまりないグループになるでしょう。75%がアフリカ系アメリカ人ですので、すべての人種で同じ事が言えるのかという点は留意する必要があります。
結論として、入院した36%のグループ(入院群)のMETsは6.7±2.8、非入院群は8.0±2.4ということで、
最大METsが高いほど入院する可能性が低くなる(その可能性は0.87倍になる)
ということです。
こういうデータをキャッチーな文章だけみて判断するのは禁物で、「運動すればコロナに感染しない」ということではありません。あくあでもそれぞれのグループの平均値の比較です。
下の図が、
A:男性(緑)と女性(青)
B:65歳未満(緑)と65歳以上(青)
C:肥満じゃない(緑)と肥満(青)
に分けたグラフです。いずれのグラフも右(→)にいくほど最大METsが高くなり、それに伴って入院の可能性の率が低くなっていくという統計処理をしたものです。
あくまでも可能性ということに注意しましょう。
ランニングは入院率を下げるのか?
この研究は、ランナーとそうでない人を対象にした研究ではありません。
ですので、ランニングが入院率を低下させるか、という直接の結果はわかりません。ただし、
ランニングをする→最大METsが上がる→入院の可能性が低くなる
という可能性はありそうですね。
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