超音波による胎児形態の標準的評価法

医学・医療

ようやくたどり着いた長い道のり

妊婦健診で受診される妊婦さんやそのご家族は、胎児の超音波検査をうけて胎児の病気をチェックしてもらうのが当たり前と思われている方が多いでしょう。
しかし、妊婦健診には健康保険が適用されないため、自費診療の扱いになります。

自費診療ということは、「このような検査をすれば○○点の費用を請求できる」というものではありませんので、各医療機関が「どのようなことを行うか自由に決めて、費用も自由に求めることができる」といっても過言ではない状態です。
自費診療として認知されているのは美容整形が挙げられます。

胎児の超音波検査はどこも同じではない!

妊婦健診は自費とはいえ、厚生労働省から「妊婦に対する健康診査についての望ましい基準」というものが出されています。何週間に一回みるとか、どのような検査を行うとか、出された基準に則って、各医療機関が妊婦健診を行っているのが実情です。
実はこの基準には、胎児超音波検査の項目はありません。

胎児超音波検査は行わなくてもいいの?

厚生労働省の告示にないからといって、胎児超音波検査を行わない医療機関はほとんどないと思います。
実際には、日本は世界的に見ても「どこの医療機関でもかなり高性能の超音波機器を備えている」という特殊な状況にあります。
多くの国では、クリニックなどの一次医療機関では、日本と同じように妊婦さんの血圧や体重、尿検査、血液検査は行いますが超音波検査は行わないところが多く、超音波検査のために専門的な医療機関に別途受診する、とか、病院内の超音波検査室に検査予約をして検査するという体制をとっています。
ですので、妊婦健診のために超音波検査で胎児をみる、というのは非常に珍しい状況です。

いつも診てくれるから大丈夫?

妊婦健診のために胎児の顔を見たり心臓が動いているのを確認しているから安心か、といえば、そうではありません。
胎児の発育の評価も当然ですが、水頭症などの脳の病気がないか、心臓の病気がないか、内臓の病気がないか、腎臓の病気がないか、など、胎児におこる様々な疾患に対して、出生前からチェックができることで、妊娠中や出産後に対処できることがたくさんあります。
ただ、「いつの時期」に「どのような項目」をチェックするか、明確な基準はなく、それぞれの医師、個々の医療機関の裁量で行っているのが現状です。

ガイドラインに書いてないの?

産婦人科医が一般に参照するガイドラインとして「産婦人科診療ガイドライン-産科編2020」があります。
このガイドラインは、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が合同で発行しているガイドラインで、広く産婦人科専門医に「標準的な診断法や管理法」を示すことを目的としています。
ただし、いずれの施設でも行い得る、適正で標準的な医療レベル を示しているにすぎないので、「さすがにここまでは診られないよ」「それにはもっと特別な研修が必要だよ」という医療者の声に配慮してあるというのも事実です。
そのため、胎児の形態評価のための超音波検査は、標準検査でない としています。

日本超音波医学会からの提案

諸外国では、すでに十数年前に様々な学会団体等から胎児形態評価のガイドラインが提唱されていました。
日本では、前述したように、日本産婦人科学会・日本産婦人科医会として形態評価のガイドラインを提唱することはコンセンサスが得られない状況ですので、私たちは外国の文献を参考に胎児超音波検査を行っていました。

今回、日本超音波医学会超音波専門医・超音波検査士を対象にとしての条件付けですが、胎児形態評価のガイドライン的な位置づけとして、標準的評価法を提示することができたことで、多くの産婦人科医・超音波検査士が参考にして、一定の基準での検査が可能になる土台がやっとできたと言えるでしょう。

超音波による胎児形態評価の標準的評価法はこちら

誰もができる内容?

個人的な理想としては、妊婦健診に関わるすべての医師が標準的評価法の内容を行えることを望んでいます。
しかし、産婦人科には様々な疾患を扱う分野があり、やはりどう考えてもすべての医師に要求するのは難しいでしょう。
そのため、日本超音波医学会超音波専門医や日本周産期・新生児医学会周産期専門医を目指すような周産期分野に専門性を持っている医師が持つことが理想とされる技術としての位置づけは、現時点では変わらないと思います。

つまり、「誰が行うか、で結構違うんですよ」ということはどうしても起こりうることになります。

妊婦健診で胎児形態評価を行う理想的な体制は?

現時点で様々な状況を考えてみました。
今回紹介するガイドラインでは、妊娠11〜13週の時期に1回、妊娠18〜20週に1回の胎児形態評価を行うことを推奨しています。ただし、必ずしも確実に評価できない場合もあります。
胎児が適した向きになっていない、肥満の妊婦さんで超音波画像が不明瞭、子宮筋腫が邪魔をして画像が得られない等々、状況によっては上手く観察できないこともあります。
その場合は、時期をおいてもう一度検査をすることも必要です。

と、書きましたが、皆さんお気づきのように、そうなると実は胎児の超音波検査は、形態を見るという点では妊娠中に2回かもしくは3回でよいということになります。
だいたい出産までに14回程度の妊婦健診がありますが、わずか3回みればあとは不要ということになります。

ただし、胎児発育の評価という観点からいえば、1ヶ月に1回ぐらいは診ておきたいなというのが本音です。

さて、どうでしょうか。実際に妊婦健診を受けられた方はお気づきでしょうが、日本では大半の医療機関が毎回超音波検査をおこなっています。
妊婦さんもそうですが医療者側も「今日の妊婦健診は超音波をしない」ということが納得できるようであれば、上に述べたような回数に時間をとって胎児の形態評価をすることが可能になるかもな、と思っています。

長々と書きましたが、少しでも多くの産婦人科医がこの標準的評価法を参考に技術習得を行って頂ければ、策定に関わったものとしては幸いに存じます。

 

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