最近、心臓の機能に関する文献をあさっていて、興味深い表題の論文に出会った。
Long-axis contraction of the ventricles: a modern approach, but described already by Leonardo da Vinci
心臓の心室の長軸方向への収縮能の評価方法を論じた2000年の論文だが、このことはすでに、レオナルド・ダヴィンチが500年も前に記しているという内容である。
細かなことは省略するが、心臓は単に左右(短軸方向)に収縮するだけではなく、前後(長軸方向)にも収縮する。もっと詳しくいえば、ねじれながら収縮する。
ということは、「心臓の収縮」を正確に評価しようとすれば、日常で行われている超音波検査では不適確ということになる。
ただし、この「不適格」という語句は誤解を生じやすい、というか、そう思って欲しくない。
確かに心臓は捻れながら三次元の収縮と拡張を繰り返す。ただ、それを正確に評価しなければいけないのであろうか、ということである。
医療の世界において、いろんなものが検査と称して測られるが、それは、別にそのことの本質を追究しているのではない。
血液検査で貧血と言われたとしても、それは、血液中のヘモグロビン量がどうだということであって、本質的には、「血液中の酸素を運ぶ物質の量が多いか少ないか」ということを測定する指標を求めているだけである。
その個体の酸素運搬能が何%低下しているか、を正確にあらわそうとしているわけではない。
しかも、ヘモグロビン量の単位は、11.4g/dLと表されるが、11.4537gdLと細かな測定をしたところで、臨床的には余り意味が無い。
ただし、学会と称した、自称医学者の集まる会合の場で飛び交う意見の中には、「心臓は三次元で収縮しているのだから、その測定方法で何かを述べても本質的ではないのでは?」というコメントを聞くことが多い。
確かに、本質的にはそうである。ただ、何か測りやすい方法で測って、それを見比べることで何かの病気を発見したり、病気の程度を評価したり、経過を観察するのに役立つのであれば、本質的ではないけどそれでもいいんじゃない、という検査項目が大半を占めているのが現状である。
さて、なぜそんなことをダラダラとここで述べるのかというと、その計測法を開発している技術者からすれば、「まあいいんじゃないで、いいんですか!」と、いいたいことは沢山あるだろうからである。
測定系を研究している研究者、測定器械を作っている技術者からすれば、「これだけ細かく正確に計ることを開発したのに、どうして利用してもらえないの?」ということになるだろう。クライアント側としては、実際に役立てるのにどれだけ便利か、ということに尽きるのが申し訳ない次第である。
さて、それはさておき、レオナルド・ダヴィンチの生きた時代、彼はどのようにして心臓のねじれながらの収縮を見いだしたのだろうか。
超音波断層装置もない時代である。
おそらく、解剖した心臓の筋繊維の走行を観察し、このように収縮するに違いないと想像したことだろう。
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